ナマエ
「っっ!くしゅっ!…ゲホッゲホッゲホッ」
「だ、大丈夫?!やっぱり、話なんかしてないで寝てないと!」
「あ…あぁ…すまな…ッゲホゲホ」
『ぼ、坊ちゃん!だから無理なんかしちゃいけないんですよ!』
あれから、長い間話していた二人。
しかし、ジューダスの体調は悪化したようで、くしゃみから咳に変わり始めていた。
「ちょっと…誰か呼んで…!」
「いらない…」
『坊ちゃん!そんな我侭いってないで!僕の言うこと聞いてくださいよ!』
「…いらない…大丈夫だから…」
「全然大丈夫じゃない顔色だよ!エミリオが何と言おうと、人呼んでくるから!」
そう言いうと、オリジナルシャルティエは走って部屋を出て行った。
「……シャル。」
『坊ちゃん!だから無理しちゃだめです!って言ったのに!!』
「………」
『坊ちゃん……?』
シャルティエからはハッキリ見えないが、ベットで仰向けに寝ているジューダスは、
仮面をはずしているためか、(いや、オリジナルシャルティエにはずされたのだが…)
いつもより、ハッキリとジューダスが微笑んでいるのが分かった。
「……久々に…ものすごく嬉しいかもしれない…」
普段、あまり感情を表に出すことはおろか、口に出すなど、普段のジューダスからは考えられないわけで、
でも、あまりにも嬉しそうだったので、つい、ちゃんとした理由を聞きたくなったが、
『ぼっちゃ……』
「ジューダス!風邪で大変なんだって?!大丈夫?!」
という、リアラの声でかき消された。


「リアラさんに頼まれたけど…他の人って…何処にいるんだ…?」
リアラを見つけ、ジューダスの様子を伝えたのだが、リアラは他にも人を連れてきて欲しいとのことだった。
リアラは偶然見つけたからいいものの、他の人は見つけるのは大変だろう。と思ったが、
ジューダスのあの様子を見て、やはり心配で、人手は多いほうがいいと思い、
オリジナルシェルティエは他の仲間も探すことにした。

しばらく歩いて、ラディスロウの中を探し回るが、みんな何処へ行ったのか、一向に見つからない。
あと可能性があるのは……ハロルドの研究室か外か、なのだが、
ハロルドの研究室に行った日には、自分の体がどうなるものか分からない。
それだけは避けたいと願い、先に外を探してみることにした。
どうやら、先ほどの吹雪は一時的なもののようで、
もう外はすっかり静かになっていた。
そして、雪はたくさんつもっており、ラディスロウの入り口から、足跡が二人分ほど転々と続いている。
誰の足跡かは分からないが、その足跡を追ってみることにした。

ペチャ。
「っ!つめて!〜〜〜!!やったなぁっ!」
「ヘン!お前の雪なんかあたらねぇよっ!」
「何をー!」
足跡をたどっていくと、楽しそうな声が聞こえてきた。カイルとロニだ。
「あ、君たち!」
ベシャ
”ちょっと”…と呼びかけようとしたのだが、カイルが投げた雪をロニはうまく避け、
その避けた雪が運悪くオリジナルシャルティエの顔に当たってしまった。
「「あ」」
「だっ…!大丈夫ですか?!」
といいながら、投げた本人、カイルが慌てて駆けつけてきた。
「すいません!このバカが雪を投げたもので!」
「ロ、ロニが避けたからだろ!!」
下手をすれば、このまま喧嘩になってしまいそうな勢いだ。
まぁ、カイルとロニの場合、そういう心配はなさそうだが…
「うん。大丈夫だよ…」
と、苦笑いをして顔から雪を払い落とし、ふと思い出したかのように
「あっ!そうだ!君たちハロルドが連れてきた子達だよね?!
 エミリオが風邪をひてね!熱が出てるようなんだ!
 と、とにかく来てくれないか?!」
「エミリオ……?それ、誰?」
カイルとロニは、きょとんとした顔をして、お互いに目を見合わせた。
「ほ、ホラ!黒い服を着た、仮面つけてる子だよ!」
「あぁ、ジューダス?…なんでエミリオなの…?」
「なんでだろ…?って、とにかく!行ってあげてよ!」
「あ、うん!分かった!」
そう言うと、三人はジューダスのいる部屋へと走り出した。



「ジューダス!!」
そう叫んで入ってきたのはカイル。それに続いて、ロニ、シャルティエと入ってきた。
「……よりによってコイツらか…」
そういうと、ジューダスはベットから体を少し起こし、座っているような状態になった。
「カイル!ジューダスは体調が悪いのにそんな大きい声ださないの!」
「あ、あぁっ!…ゴ、ゴメン…」
リアラに怒られて少しシュンとしたカイルだったが、すぐにジューダスの変化を見ると、目を丸くした。
「ジュ、ジューダス!仮面は?」
「仮面……あそこにある」
そう言うと、オリジナルシャルティエが置いた棚の上を指差した
「お前が仮面とってるなんて!雪でも降るんじゃねぇか?!」
「えっ?!雪降ってるよ?!」
「言葉のあやだよ。あ・や」
そう言いながらもまじまじとジューダスの顔をロニは見ている。
「……なんだ…」
それに少し照れたのか、顔を少し赤らめ、後ろに後ずさりした
「いや、な、ジューダス、お前絶対に仮面とったほうがいいぞ、うん。俺が保障してやる」
「お前の保障など信用できんな……おい」
”なんだよ、可愛くねぇなぁ”というロニの言葉を流しながら、ジューダスはオリジナルシャルティエを呼びかけた
「え?あ、僕?…何?」
「人は、いらないと言ったのに…何故呼んできた…?」
ジューダスの陰で、シャルティエが『すみませんすみません;;』と謝っているのは聞き流しながら、
ジューダスは、理由など、聞かなくてもいいのだが、少し聞いてみたくなった。
「いや、その、エミリオ、なんか、大変そうだったし、病人をほっとくなんてできないよ」
という言葉を聴くと、ジューダスは、おそらく他の人にはわからないくらい微妙に笑った。
「ありがとう」
「え?」
「礼を言っているんだ。人を呼んでくれたことに」
「あ、うん。どういたしまして…」
てっきり、迷惑だ!とでも怒られるのを覚悟していたオリジナルシャルティエにとって、
ジューダスの言葉は意外で、驚いた顔をして止まってしまった。
「あ、そういえばジューダス!……ってエミリオなの?」
カイルとロニ、おそらくリアラも気になっていたことを率直にカイルは聞いてみた。
『ホラ!坊ちゃん!本名とか教えちゃうから!こんなことに!
 っていうかなんで僕、坊ちゃんの名前皆の前で呼んじゃってるんですかー!!』
「うるさい」
「あっ、ゴメン…答えたくないなら…」
「いや、違う…独り言だ。」
オリジナルシャルティエには分からないだろうが、三人にはあぁ、シャルティエと話していたんだな、と納得した。
「……気にするな。昔の名だ」
と、険しい顔でジューダスは答えた。
「…はぁ…」
これ以上問い詰めたら、なんだか怒られそうなので、これ以上問い詰めるのはやめにした。
「っ!ゲホッゲホッ」
「あ、大丈夫?!ジューダス!ホラ、寝てないと」
「あぁ……」
「ハロルドにでも薬作ってもらうか?!」
ロニが冗談で言うが、
「あ、それはやめといたほうが…」
と、オリジナルシャルティエは即座にツッコんだ。
「少し……休む…」
「うん。そうして、…おやすみ、ジューダス」
リアラのこの声を聞いて、ロニとカイルは、部屋を出て行った。
「あ、エミリオ、少し、聞きたいことがある……疲れているのなら、かまわないが…」
「…あぁ…聞く、言ってくれ」
「あ、じゃあ私、出て行くね」
と、リアラが出て行った。少し気を使ってくれたのだろうか?
「あの…どーでもいいことかもしれないんだけど…」
「エミリオは……僕の本当の名前だ…ジューダスとは、あいつら勝手に呼んでいるだけだ」
質問を言う前より先に、質問の答えを返されたオリジナルシャルティエは、少し間を空け、
「そっか、ヘンなこと気にしちゃって、すまない」
「……もう、エミリオと僕のことを呼ぶ人はいない……」
「……じゃあ、僕が呼ぶよ」
「……」
「あ、め、迷惑かな?じゃあみんなにあわせてジューダスでもいいんだけど…」
「いや……エミリオと呼んでくれ…いや…呼べ」
そういうと、ジューダスは少し起き上がり、”命令だ。シャルティエ少佐”と付け足した。
「……はい」






「エミリオって…どっかで聞いた事のある名前なんだがなー……」
「何?まだそのこと気にしてるの?ロニ?」
「いやぁな、なんかつっかかってよ」
「どうせどこかの町でナンパした子の名前とかじゃないの?」
「フフフ!ロニならありえそうね!」
「何をー!カイル!俺に向ってそれはないだろー!
っていうかエミリオって明らかに男じゃないか!」
「あはは、実は男も…?なんちゃって。ゴメンゴメン」
「でも、エミリオって名前、ジューダスに似合わない?」
「そっかぁ…?俺は、そう思わないけど…」
「まぁ、ジューダスはジューダスだよ。うん」
「お前、それ答えになってないぞ」
「えっ?そうかなぁ…」
「フフフ、まぁ、いいじゃない。」
「だよね!」
「……ラブラブめ」
「なっ!ロ、ロニ!何言うんだよっ!」
「そ、そうよ!ロニ!ヘンな事言わないでよ!」
「ヘイヘイ。二人でどうぞ仲良くしてくださいっと♪」
「「ロニー!!」」
「でも……本当にどこかで…その名前…」





『ねぇエミリオ………』
ロニがどこかで聞いたことのある。”エミリオ”という名前。
それはおそらく自分の母親代わりの人が、小さく、悲しく呟いた名前。
しかし、ロニがそれを思い出す日は、おそらくないだろう。

「エミリオ、ゆっくり寝て、早く風邪、なおしなよ」
「…あぁ…」
「じゃあ、おやすみ」
「…あぁ…………ありがとう」
「どういたしまして」
何に対してのありがとうかは分からなかったけど、
けど、なんとなく分かったような気がして、返事を返した。
その意味を知ることになるのは、おそらく1000年後のことであろう。



「なぁ…シャル」
『はい?』
「お前は、1000年前も今も変わらないな」
『そ…そうですか;進歩がないっていうか…』
「いや、嬉しいよ、僕は」
『……はぁ?』
「いまここで僕とシャルは会ったけど、1000年後もシャルは僕のこと覚えてるんだろうか……?」
『…きっと、覚えてますよ』
「何故そういえる?」
『いや、絶対に覚えてますよ。坊ちゃんのことですもの』
「そうか……
クス
『坊ちゃん、今日はよく笑いますよね。しかも微妙に』
「悪いか?」
『いいえ…僕は、笑ってる坊ちゃんを見てる方が、嬉しいです』
「そうか…」
剣のシャルティエから表情は見えないが、
本物のシャルティエに会ったせいか、シャルティエの笑っている顔が、
ジューダスには見えた気がした。

『さぁ、坊ちゃん!早く寝てくださいね!』
「あぁ……」
『僕は…坊ちゃんのありがとうの意味、分かりますよ」
「…言ってろ…」
そういって彼が笑ったのは、今日何度目だろうか?


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